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読書日記

どうして募金をすると、赤い羽根をもらえるのだろうか?

赤い羽根募金は、日本で行われている社会福祉活動を支援するための募金活動です。この募金活動は、1947年に始まり、毎年10月から12月の間に全国各地で実施されています。募金を通じて集められたお金は、地域社会の福祉活動や支援を必要としている人々に役立てられています。

 主な赤い羽根募金の目的は、地域福祉活動の促進や困っている人々の支援です。たとえば、以下のような分野に活用されます:

  • 高齢者や障害者への支援
  • 子どもや若者の育成支援
  • 地域の災害復興支援
  • 社会福祉施設の運営や設備の整備

赤い羽根の由来

「赤い羽根」は、募金に参加した人がシンボルとして胸につけるもので、感謝と支援の気持ちを表しています。この羽根は、募金活動の象徴として長い間親しまれています。

でも、なぜ赤い羽根を渡すのか、疑問に思うことはないだろうか。

赤い羽根を目当てに募金をしているわけではないし、募金活動の象徴と言われても、いまいち納得がいかない。赤い羽根よりも、もっと実用的なものをもらえた方がうれしいと思わないだろうか。

これに関して、2009年に以下の研究が行われた。

“The Effect of Symbolic vs. Practical Rewards on Charitable Contributions: A Field Experiment” は、Kenta K., Petty, R. E. (2009) による研究で、寄付者に提供する報酬の種類(象徴的な報酬と実用的な報酬)が募金行動に与える影響を実験的に調査したものです。この研究は、どのタイプの報酬が寄付者を最も効果的に動機づけるかを明らかにしようとしたものです。

  • 研究の目的と背景

研究者たちは、寄付を促進するためにどの種類の報酬が最も効果的であるかを調べました。報酬には主に2つのタイプがあり、それぞれが寄付行動に与える影響が異なると予測されます。

象徴的報酬: 寄付者に感謝の意を表す、または寄付者の貢献を記念するようなシンボル的な報酬(例えば、リボンや認定証)。

実用的報酬: 実用的で物理的なアイテム(例えば、グッズ、食べ物、チケットなど)を提供する報酬。

この研究の目的は、これら2種類の報酬が募金にどのように影響を与えるか、またどちらの報酬が寄付を増やすのに効果的かを比較することでした。

  • 実験の概要

研究者たちはフィールド実験を行い、実際の募金活動において寄付者に異なる種類の報酬を提供しました。具体的には、寄付者に次のような選択肢を提供しました:

1. 象徴的報酬: 寄付者にはリボンや感謝状といった、寄付の「記念品」としての象徴的なアイテムが与えられました。

2. 実用的報酬: 寄付者には実際に使用できる物品(例えば、クーポンや特典)を提供しました。

研究者たちは、これらの報酬がどのように寄付行動に影響を与えるか、特に寄付の金額や寄付率にどのような差が出るのかを観察しました。

  • 主要な発見

– 象徴的報酬の効果:

  – 寄付者が「貢献している」という感覚を重視する場合、象徴的な報酬(リボンや認定証など)が非常に効果的で##あること##がわかりました。これらは寄付者に社会的承認や名誉感を与えるため、寄付行動を強化します。

  – 寄付者が自己満足や他者に自分の貢献を示したいという心理的な欲求を満たすため、象徴的な報酬は非常に効果的に働きました。

– 実用的報酬の効果:

  – 実用的な報酬(物品やクーポン)を提供された場合、寄付行動にはやや違った影響が見られました。これらの報酬は、寄付者に**即時的な利益**を提供するため、感謝の気持ちや見返りを重視する寄付者には効果的でしたが、長期的な寄付行動にはあまり影響を与えないことが示唆されました。

– **報酬の選択肢と寄付行動の関係**:

  – 象徴的な報酬が与えられると、寄付者が自分の行動に誇りを感じ、他者との関係で自己表現を求める場合に募金が促進されました。特に、寄付者が**社会的な認知**を望んでいるとき、象徴的な報酬は効果的でした。

  – 一方、実用的な報酬は、物理的な利益を求める人々に対しては一時的に寄付行動を引き起こすことがありましたが、寄付の金額や頻度には限界がありました。

  • 結論

研究者たちは、報酬の種類が寄付者の動機に大きく影響することを確認しました。象徴的報酬は特に社会的承認を重視する寄付者に対して強い効果を発揮し、実用的報酬は即時的な利益を求める寄付者に対して一定の効果があったものの、持続的な寄付行動を促す力には限界があるとされています。

この研究では、有名なある効果が証明されたことになる。それは「トークン効果」である。

トークン効果(Token Effect)とは、行動の見返りとして小さな象徴的な報酬や記念品を与えることで、人々の行動が促進される心理的効果のことです。特に募金やチャリティ活動でよく見られる現象で、赤い羽根募金の「赤い羽根」もこのトークン効果の一例です。

### **トークン効果の特徴**

1. **具体的な形で「行動の証明」を提供** 

   トークン(小さな記念品やシンボル)は、行動を象徴する具体的な形として機能します。これにより、行動の達成感や満足感が高まります。

2. **社会的な承認を得やすくする** 

   トークンは、他人に「自分が行動したこと」を示すツールになります。これにより、他者からの承認や尊敬を得るきっかけになり、行動を正当化する効果があります。

3. **行動の記憶を強化する** 

   トークンを目にすることで、その行動を思い出しやすくなり、良い経験として記憶に定着します。この記憶が、次回の同様の行動を促すことにもつながります。

### **トークン効果の具体例**

1. **赤い羽根募金** 

   募金をすると赤い羽根をもらえることで、「募金をした」という達成感や満足感を視覚的に得られます。また、羽根を身につけることで、社会的な承認欲求も満たされる可能性があります。

2. **チャリティーバンドやピンバッジ** 

   特定の病気の支援活動で配られるリストバンドやピンバッジも、同様の効果を狙っています。これらを身につけることで、「支援者」というアイデンティティが得られます。

3. **スタンプカードやポイントシステム** 

   スタンプやポイントも一種のトークンとして機能します。特に日常的な行動を促すために、具体的な進捗や報酬を視覚化する役割を果たします。

### **心理的メカニズム**

1. **象徴的報酬の価値** 

   トークン自体は経済的な価値が低いことが多いですが、人はそれに象徴的な価値を見出します。たとえば、「この羽根は私が募金をした証明だ」と感じることで、トークンが行動の動機づけに繋がります。

2. **社会的比較** 

   トークンを持っている人を見ると、他者もその行動を模倣したいと思うことがあります。これにより、行動が広がることがあります(例:職場や学校で募金に参加する人が増える)。

3. **行動と報酬の連結** 

   トークンが与えられると、「行動をした→報酬を得た」という快感が強化され、次回の行動につながるポジティブなサイクルが生まれます。

### **トークン効果の限界**

1. **形だけの行動に終わるリスク** 

   トークンを得ることだけが目的化すると、本来の意図(善意や共感)が薄れる可能性があります。

2. **依存性の問題** 

   トークンがなければ行動しないという状況が生まれることもあります。この場合、トークンが行動の必要条件になってしまい、内発的な動機づけが減少します。

3. **見せびらかしへの反感** 

   トークンをつける行為が「善意を誇示している」と捉えられる場合、周囲の人々に逆効果を及ぼすこともあります。

### **結論**

トークン効果は、人々の行動を促進するための効果的な手段ですが、それを持続的な行動に結びつけるには、**トークン以上に「行動の意義」を理解させる工夫**が必要です。 

たとえば、赤い羽根募金であれば、「赤い羽根をもらう」ことだけでなく、「募金でどのような成果が生まれるのか」を明確に伝えることで、行動の継続性や深い満足感を得られるようになります。